定率調整による給与についてのメモ

1 概要

給与が1000万円の人の10%と、500万円の人の10%では、絶対額で50万円の差がある。10%増えればその分差が広がる(差が550万円)し、10%減ればその分差が縮まる(差が450万円)。定率調整による給与変化・格差を考えるためにこのメモを作成した。

2 定義

ある組織には、ある有限人の社員・使用人・職員等(以下社員等)が存在している。その社員等の集合を$N$($\vert N\vert\geq 2$)とする。各社員等が受ける毎月の給与(基本給)を $I(n):N\rightarrow R_{++}$とする。ただし$\vert I(N)\vert\geq 2$。 給与変化率を$p$($0<r$)、(基本給に比例した)元々の手当率を$q$($1\leq q$)、手当率の変化率を$r$($0<r$)とする。例えば、基本給与が5%カットなら$r=0.95$、基本給に対する手当率が5%なら、$q=1.05$、手当率が5%から10%に上昇すれば、$r=1.1/1.05$

3 諸事実

定理 1   基本給$I(n)$に対して、一定率$r$の増減給を施し、その増減給後の基本給$rI(n)$に対して、元々の定率手当$q$に一定率$r$の手当率増減を施したとする(これらを以後「定率調整」と呼ぶ)。定率手当を施した後の給与を「調整給与」と呼ぶことにする。このとき、定率調整後の調整給与と元の調整給与とが同じになる条件と、定率調整後に各社員間の絶対額の調整給与差が変化しないための必要十分条件は同値である。

証明:任意の社員等$n$の定率調整後の調整給与は$pqrI(n)$。これが元の調整給与$qI(n)$と同じであるためまた同じのときには、$pqrI(n)=qI(n)$より、$pr=1$が成り立つことが必要かつ十分。一方で、ある2社員$l\in N$$h\in N$の間に、 $qI(h)-qI(l)=t(t>0)$が成り立つ時、調整給与差$t$が定率調整後で変化しないための条件は、 $(pqrI(h))-pqrI(l))=t$より、$pr=1$であることが必要かつ十分条件。よって二つの必要十分条件は同値。$\clubsuit$

この定理は何を意味するかといえば、定率調整によっては、異なる社員等の給与額の差を保ったまま、別の給与の額に調整することができなということである。定率調整によって給与が変化した場合は、必ず社員間の給与差が変化しているということにもなる。この証明と同様の方法で、次の定理も自然に導かれる。

定理 2   定率調整では、ある一人の調整給与が元の調整給与より増加(減少)することと、ある二人の調整給与の差額が増加(減少)することとは同値である。

つまり、(社員等に対する一斉)の定率調整で給与が調整された場合、自分の基本給が増加していれば、必ず他の人との調整給与の差は「絶対額で」広がっているし、調整給与が減少していれば、他の人との差は縮まっていることになる。次の事実も当然のことなのだが重要だと思われる。

事実 1   定率調整では、ある社員等の調整給与が増え、ある社員等の調整給与が減るということは起きない。つまり、ある社員が減っていれば、必ず全員の調整給与が減っているし、ある社員等の調整給与が増えていれば、全員の給与が増えている。

事実1は、定理1の証明で$n$が任意だったことから証明できる。この事実から次の事実も導かれる。

事実 2   給与原資(全社員等のもととなる給与総額)が一定のもとでは、定率調整によって実現可能なのは、(1)給与無変化(2)給与一斉減額のどちらかである。

定理1より、定率調整のもとでの、調整給与が変化しない「給与変化率」と「手当率変化率」の組み合わせ$p=1/r$($0<p,0<r$)が導かれるが、これを図示する。
Figure 1: 給与変化率と手当率変化率の関係
\includegraphics{rate.eps}
例えば、$r=2$のとき$p=0.5$となるが、これは、手当率が2倍になった(例えば元の手当率が1、つまり手当無しだったのが、手当率が2となる、つまり手当が基本給分まるまるつく)とき、基本給が半減すれば、元の調整給与額になってしまう、ということ。基本給変化率$p$の意味は、明確だと思われるが、手当率変化率$r$について補足説明する。例えば、現行の何らかの手当率が、基本給の10%だったとしよう。これが12%に増加した場合、$q=1.10$, $r=1.12/1.10=1.01818....$である。今、近似値で、$r=1.0182$とすると、 $p=0.98212......$となる。つまり、基本給が約1.7%以上の減少した場合、元の調整給与より減少するし、それ以下では増加する。1.7%の減額は、税引き前給与が20万円の時は、3400円の減額に相当する。

定率変化の背後にある理屈は、次のグラフを見ると分かる。

Figure 2: $y=x$,$y=2x$,$y=0.5x$
\includegraphics[width=10cm]{graph.eps}

図の$x$軸が変化前の数値、$y$が変化後の数値として考える。$y=x$は変化無し。$y=0.5x$は、$0.5$の定率をかけた場合、$y=2x$は、$2$の定率をかけた場合、となる。どこでもよいので、$x$軸上の任意の二点を取る。それらの差が、関数によって、$y$軸上で広がるのか狭まるのかどうかを見ると明らかであろう。

4 議論

定率調整は一見すると公平なように思えるが、増加する方向に動いた場合、調整後の給与絶対額の差は広がる 。逆に減少方向に動いた場合は絶対額の差は縮まる。例えば、ある会社の景気が上向いてはいるが、社員の給与ポジションが固定されていて、「みんなよく頑張った。利益も出ているから、現在の基本給に応じて全員10%給与を上げよう!」といった場合、もともと高い給与の人ともともと低い給与の人の差は、実はより大きく開く。定率調整というのは公平なようにみえて、ある面で公平ではない。給与というのは組織内の相対的な位置が重要なのではなくて、(インフレーション等が無いとして)絶対額が重要なのだから、もう少し議論が必要だろう。

また、基本給はどういった組織にしろ、退職手当その他と連動している場合が多いので、即時的には給与の変動が無くても最終的な所得は大幅に変動する可能性が高い。

以上の議論(定理・事実等)は、組織の給与構造そのものとは無関係に成り立つ。高い給与の人が多かろうが、少なかろうが、給与がどんな分布をしていても無関係に成り立つ。

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定率調整による給与についてのメモ

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